山形地方裁判所米沢支部 昭和52年(ワ)129号 判決 1980年3月31日
原告 山形県第一信用組合
右代表者代表理事 新野広吉
右訴訟代理人弁護士 塚田武
被告 斎藤実
右訴訟代理人弁護士 永井修二
被告 今田哲夫
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 岡島勇
被告 安井順三
右訴訟代理人弁護士 梶原等
主文
一 被告らは、原告に対し、各自金九〇〇万円及びこれに対する昭和五一年一〇月一日以降支払済まで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一申立て
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金一、六五〇万円及びこれに対する昭和五一年一〇月一日以降支払済まで年一八・二五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決及び仮執行の宣言を求める。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二主張
一 請求原因
1 原告は、昭和四九年一一月二六日、訴外荒木貞哲に対して、金二、五〇〇万円を貸渡した。
2 原告は、昭和五〇年三月一一日、右訴外人に対して、金五〇〇万円を貸渡した。
3 原告は、右訴外人との間で、昭和五〇年一二月二七日、右1、2記載の貸金債務のうち金一、九三〇万円をもって消費貸借の目的とすることを約し、次のとおり定めた。
(一) 弁済期 昭和五一年二月三日以降昭和五四年一二月三日まで毎月三日限り金四〇万円ずつ、昭和五五年一月三日限り金五〇万円を分割弁済すること。
(二) 利息 利率を年一〇・七五パーセントの割合とし、右昭和五〇年一二月二七日及び右(一)記載の各弁済期に一か月分ずつ支払うこと。
(三) 期限後の損害金 年一八・二五パーセントの割合とする。
(四) 期限の利益喪失特約 右(一)、(二)記載の約定に反したときは、何らの通知、催告を要せず、当然に期限の利益を喪失し、残債務を直ちに原告に対し支払うこと。
4 被告らは、昭和五〇年一二月二七日、原告に対して、訴外荒木貞哲の右3記載の債務を同訴外人と連帯して保証する旨を約した。
5 右訴外人は、前記3の(一)、(二)記載の約定に反し、昭和五一年五月三日以降、毎月三日限り支払うべき元金及び利息を右各期限までに支払わなかったので、前記3の(四)記載の特約により、遅くとも昭和五一年九月三〇日の経過によって、期限の利益を喪失した。
6 よって、原告は、被告らに対して、前記準消費貸借金のうち金一、六五〇万円及びこれに対する弁済期の経過した後の日である昭和五一年一〇月一日以降支払済まで約定利率年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する答弁
請求原因事実はいずれも認める。
三 抗弁
1 原告と訴外荒木貞哲とが原告主張の準消費貸借契約を締結した際、右訴外人及び被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三はいずれも山形県内に住所を有せず、そのため原告の組合員となる資格がなかったところから、右契約の形式的条件を具備させるため、原告と被告斎藤実は、同被告が連帯保証人という名目で名義を貸付するのみで、原告は同被告に対して連帯保証人としての責任を負担させず、債務を一切請求しない旨を合意した。
2 被告らは、原告主張の連帯保証契約当時、訴外荒木貞哲、被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三が共有で所有する建物につき右訴外人が原告のために設定した根抵当権及び右訴外人が単独所有ないしは共有持分の有する宅地につき同訴外人が原告のために設定した根抵当権及び右建物についての右根抵当権の物上代位権の行使並びに右建物、同建物内の機械類を対象とした火災保険金請求権及びこれに対する質権設定により、原告は、原告主張の債務を容易に回収することができ、被告らが現実に連帯保証債務の履行を迫られる可能性はないものと信じて、右連帯保証契約をしたものである。
しかるに、原告は、右根抵当権、右物上代位権を行使せず、右火災保険金請求権による債務の回収をはからず、右火災保険金請求権に対する質権の設定をしなかったものである。
よって、被告らの右連帯保証契約における意思表示はそれぞれ要素の錯誤があったものであって無効である。
3 被告らは、原告主張の連帯保証契約を結んでいたものであるところ、訴外荒木貞哲、被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三が共有する建物につき右訴外人が原告のために極度額金一、五〇〇万円の根抵当権を設定し、その旨の登記手続を経由し、右訴外人及び被告安井順三が右建物及び同建物内の機械設備に火災保険契約を締結していたものであるが、原告は、右火災保険金請求権に対する質権を設定すべきであったにもかかわらずこれを怠っているうち、右建物及び右機械設備は昭和五一年三月二七日焼失し、原告は、いずれも容易に実行できた状態であったにもかかわらず、右火災保険金請求権に対する物上代位権を行使せず、また、仮差押等の保全処分手続もしない間、右訴外人が右保険金約七、〇〇〇万円を取得したまま行方不明となったものである。
よって、原告は、懈怠により担保保存義務に反したものであり、連帯保証人として法定代位をなすに付き正当な利益を有する被告らは、償還を受けることができなくなった原告主張の本件債権全額について責任を免れるというべきである。
4 前記2、3に記載したとおり、金融機関である原告が極めてわずかな注意を用いれば容易に回避できた最も基本的かつ初歩的な懈怠によって原告主張の本件債権を回収不能にさせ、その結果被告らに対して連帯保証契約上の債務の履行を求めることは信義誠実の原則に反し権利濫用というべきである。
四 抗弁に対する答弁
1 抗弁1の事実は否認する。
2 同2の事実のうち、被告ら主張の建物及び宅地につき同主張の根抵当権が設定されたこと、原告が、被告ら主張の根抵当権、物上代位権を行使せず、同主張の火災保険金請求権による債務の回収をはからず、右火災保険金請求権に対する質権の設定をしなかったことは認めるが、その余は否認する。
3 同3の事実のうち、被告らが前記連帯保証契約を結んでいたこと、被告ら主張の建物につき同主張の根抵当権が設定され、その旨の登記手続を経由したこと、原告が被告ら主張の火災保険金請求権に対する質権の設定をしなかったこと、被告ら主張の建物等が同主張の日に焼失したこと、原告が被告ら主張の火災保険金請求権に対する物上代位権を行使せず、仮差押等の保全処分手続をしなかったことは認め、訴外荒木貞哲及び被告安井順三が被告ら主張の建物等に火災保険契約を締結していたものであること、右訴外人が被告ら主張の保険金を取得したまま行方不明になったことは不知、その余は否認する。
4 同4の事実は否認する。
五 再抗弁
1 被告らは、いずれも連帯保証人であるほか、被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三は、被告ら主張の建物の共同所有者で、同建物で営むパチンコ店の共同経営者であり、被告斎藤実も右経営者に準じた立場にあったのであるから、自ら物的担保及びその担保力の有無、程度及び被告ら主張の火災保険契約、同火災保険金請求権に対する質権設定の有無、内容等を確認すべき注意義務があるというべく、右注意義務を尽くさなかった被告らには、被告ら主張の錯誤につき重大な過失があるものというべきである。
2 被告らは、いずれも、前記連帯保証契約に際して、原告に対して「貴組合の都合によって担保もしくは他の保証を変更・解除されても異議はない。」旨を約したものであり、右特約により民法五〇四条の適用は除外されるものというべきである。
六 再抗弁に対する答弁
1 再抗弁1の事実のうち、被告らがいずれも連帯保証人であること、被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三が前記建物の共同所有者であることは認めるが、その余は争う。
2 同2の事実は争う。
第三立証《省略》
理由
一 (本件経緯等)
1 請求原因事実はいずれも当事者間に争いがない。
2 右当事者間に争いがない事実に、《証拠省略》を総合すると、次のとおり認めることができる。
(一) 被告斎藤実は、従来より原告の委託を受けて原告の業務に携っていたものであり、訴外荒木貞哲は、同訴外人の母親と右被告とがいとこの関係にあって従来から交際があり、右訴外人及び被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三はいずれも山梨県甲府市付近に在住し、被告安井順三はパチンコ店を経営し、被告今田哲夫は同店の役員をしていた。
(二) 昭和四九年ころ、訴外荒木貞哲が被告らに対して山形県内でパチンコ店を経営することを持ちかけたころから、被告らはこれに応じ、同県内の山形市、東置賜郡高畠町でパチンコ店を営むこととし、右訴外人が右パチンコ店の実質的な経営にあたり、右訴外人及び被告望月泉、同安井順三が店舗建築資金、機械購入資金等として合計金二、五〇〇万円位を出資することとした。
(三) 訴外荒木貞哲は、前記甲府市付近から前記高畠町に住所移転の手続をして原告の組合員となったうえ、昭和四九年一〇月及び昭和五〇年三月にそれぞれ原告に対して融資方を申入れた結果、原告は、右訴外人に対して、昭和四九年一一月二六日に金二、五〇〇万円を、昭和五〇年三月一一日に金五〇〇万円を貸渡したが、右貸借にあたって、被告らはいずれも原告に対して右訴外人の右債務を同訴外人と連帯して保証する旨を約したほか、被告斎藤実は、右の金二、五〇〇万円の貸借にあたって、資産証明、納税証明を原告に対して交付した。
(四) この間、訴外荒木貞哲は、昭和四九年一一月一日ころ、いずれも前記高畠町内の宅地五一四・九八平方メートルの所有権及び宅地二、七九二・七四平方メートルについての持分二、七九二番の一四六を買受け、同月六日、その旨の移転登記手続を経由した。
また、右訴外人及び被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三は、
前記高畠町大字糠野目字飯塚一、七一五番一、遊技場 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建
一階 二三〇・四六平方メートル
二階 六六・二四平方メートル
を建築して各持分四分の一の共同所有として、昭和四九年一一月二一日、その旨の所有権保存登記手続を経由した。
昭和四九年一一月二六日ころ、右宅地二筆について、極度額を金六〇〇万円、債務者を右訴外人、根抵当権者を原告とする根抵当権、右建物について、極度額を金一、五〇〇万円、債務者を右訴外人、根抵当権者を原告とする根抵当権がそれぞれ設定され、同年一二月二五日、その旨の登記手続が経由された。
(五) 訴外荒木貞哲が原告に対して返済条件の変更を申入れたところから、残金六〇〇万円については被告望月泉の定期預金担保貸付にしたうえで、原告は、右訴外人との間で、昭和五〇年一二月二七日、前記貸金債務のうち金一、九三〇万円をもって消費貸借の目的とする請求原因3記載の準消費貸借契約を締結し、被告らは、右同日、原告に対して、右訴外人の右債務を同訴外人と連帯して保証する旨を約した。
(六) 原告においては、通常、貸付けにあたっては、債務者に対して、担保の対象である建物について、原告備付けの火災保険契約申込書、質権設定書を利用するなどして、火災保険契約を締結することを求め、同火災保険金請求権に対して質権の設定を受けることとし、取扱保険業者は債務者が特に指定しない限り、日産火災保険高畠町代理店としていたところから、当時の原告の常務理事であった訴外渡辺敏雄、本店長であった訴外長瀬勲ら、原告の上層部は前記(四)認定の建物について火災保険契約が締結され、同火災保険金請求権に対して原告のために質権設定がなされているものと判断していた。
しかるに、当時の原告の本店融資係長であった訴外吉田栄など融資担当者らは、訴外荒木貞哲に対して、前記(四)認定の建物について火災保険契約を締結すること及び同火災保険金請求権に対して原告のために質権設定することの手続をとるよう再三求めたが、右訴外人は、被告安井順三が保険代理店を営んでいるので、自己の責任で同被告を通じて火災保険契約を締結し質権設定手続も行う旨を言明したので、これを信頼し、原告自身では何らの手続もせず、右訴外人に委ねることとしていたところ、被告安井順三あるいは右訴外人において右建物についての火災保険契約を結んだものの、右訴外人において、昭和五一年ころ、質権設定書ないしは質権設定承認裏書書を原告に持参したので、右書面の控えをとることもなく、また、保険契約証書を点検確認ないしは保管することもしないまま、該当欄に原告の本店長印を押印して右訴外人に交付したものであったところ、右建物は昭和五一年三月二七日火災により焼失した。
なお、この間、被告らは、原告に対して、右建物についての火災保険契約の有無、内容、同火災保険金請求権に対する原告のための質権設定の有無、内容などについて特段問合せることはしなかった。
(六) 右火災後間もなく、前記訴外長瀬勲において、千代田火災保険に問合せたところ、「おたくでは質権設定がされていないが、四、五日後に保険金がおりる。」旨を言われ、また、前記訴外渡辺敏雄は原告を訪れた訴外荒木貞哲から、「質権設定をしなかったことは申しわけない。残債務については火災保険金のとおり次第責任をもって決済する。」旨述べられて、前記(四)認定の建物についての火災保険金請求権について原告のための質権が設定されていなかったことをはじめて知ったが、訴外荒木貞哲が右火災保険金を受領後原告に対して弁済するものと信じて特段の処置をとらないでいたが、右弁済がなされなかったので同訴外人に対して催促したが、同訴外人は言を左右にするばかりであり、被告らに対しても早急に弁済するよう同訴外人と連絡をとられたい旨を要望したがその効果がなく、同訴外人は右火災保険金を受領した後、昭和五二年春ころ以降行方不明となった。
以上のとおり認められるところ、右認定に反する《証拠省略》は前掲各証拠に照らして採用することはできず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
二 (抗弁1について)
抗弁1の主張について判断するに、被告斎藤実は同被告の本人尋問においてこれに副う供述をするが、前記一の2の(一)及び(三)認定のとおり、同被告は訴外荒木貞哲と親戚の関係にあって従来から交際があった点からすると、同被告が連帯保証人としての責任を回避することができる立場ではなかったと思われること、右訴外人が前記高畠町に住所移転の手続をして原告の組合員となったことで抗弁1のうちの形式的条件は具備されるに至っていると思われること、《証拠判断省略》、に《証拠省略》他に右主張事実を認めるに十分な証拠はない。
よって、抗弁1は理由がない。
三 (抗弁2について)
前記一の2の(四)及び(七)認定の事実及び《証拠省略》によると、被告ら主張の建物及び土地について原告のため根抵当権が設定されていたのであるが、原告は、右根抵当権、物上代位権を行使せず、火災保険金請求権による債権の回収をはからず、右火災保険金請求権に対する質権設定もしなかったことが認められるが、被告ら主張の錯誤はいわゆる動機の錯誤に属するものというべきところ、動機が表示され、相手方である原告がこれを知っていたことについては、これに副う趣旨とも思われる《証拠省略》は、前記一の2の(一)及び(三)認定事実及び《証拠省略》に照らして直ちには採用できず、他にこれを認めるに十分な証拠はない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁2は理由がない。
四 (抗弁3について)
1 被告らが原告主張の連帯保証契約を結んでいたものであるところ、訴外荒木貞哲、被告今田哲夫、同望月泉、同安井順三が共有する建物につき、極度額を金一、五〇〇万円、債務者を右訴外人、根抵当権者を原告とする根抵当権が設定され、その旨の登記手続が経由され、被告安井順三あるいは右訴外人において右建物についての火災保険契約を結んだものの、右火災保険金請求権に対する質権の設定手続をしないうち、右建物が昭和五一年三月二七日火災により焼失し、右火災保険金請求権に対する物上代位権の行使や仮差押等特段の処置をとらないでいた間、右訴外人が右火災保険金を受領した後昭和五二年春ころ以降行方不明となったことは前記一の2の(四)ないし(七)認定のとおりである。
2 ところで、抵当建物について火災保険契約を結び同火災保険金請求権上に質権の設定を受けることが取引上多くおこなわれていることは前記一の2の(六)認定事実及び《証拠省略》より窺うことができるが、原告が前記1認定のとおり前記火災保険金請求権上に質権の設定を受けなかったことをもって民法五〇四条に規定する担保の喪失または減少に該当するものと解することはできない。
3 他方、抵当権者は抵当建物についての火災保険金請求権に対し抵当権に基く物上代位の権利を行使することができるものと解すべく、右1認定のとおり、原告が物上代位権を行使しないうちに訴外荒木貞哲が右火災保険金を受領したため、右物上代位権が消滅するに至ったことは、担保保存義務に違反するものであって、民法五〇四条規定の担保の喪失または減少に該るものと解することができる。
しかしながら、右1記載の建物についての保険金額あるいは支払保険金額については、証人渡辺敏雄は金七、〇〇〇万円支払われたときいている旨を証言し、被告安井順三は、その本人尋問において、金七、六〇〇万円である旨供述するが、これに副う書証の提出もなく、また、《証拠省略》によると、右建物の建築費用は金一、五〇〇万円位であったことが認められることに照らすと、右の証言及び供述はにわかに採用することができず、他に右の保険金額あるいは支払保険金額についてこれを認めるに十分な証拠はない。
そうすると、右物上代位権の行使によって法定代位権者である被告らがいくら償還を受けることができたかについてはこれを認めることができないということになる。
4 よって、その余の点について判断するまでもなく、抗弁3は理由がない。
五 (抗弁4について)
1 前記一の2において認定した事実、とりわけ、そのうち前記四の1において指摘した事情に照らすと、原告は、通常、貸付けにあたっては、火災保険契約を締結させ、質権の設定を受けることとしていたが、昭和五〇年一二月二七日の前記一の2の(五)認定の準消費貸借契約及び連帯保証契約の際には、これに先立つ昭和四九年一一月二一日にすでに保存登記手続が経由されていた同(四)認定の建物についての火災保険契約を締結させ、同火災保険金請求権上に質権の設定を受けることを条件とすることも可能であったことからはじまり、その後も同(六)認定のように訴外荒木貞哲において質権設定書ないしは質権設定承認裏書書を原告に持参した際にも保険契約の有無、内容等を確認せず、さらに同(七)認定のように右建物の火災後、千代田火災保険に問合せた結果からしても、すみやかに右火災保険契約の内容等をも問合せ、同火災保険金請求権を差押え、あるいは仮差押手続をとる余地があったのに、いずれも右訴外人のその場限りの無責任な言動を軽信して特段の処置をとらなかったものというべきであって、この点について、債権者である原告が自から何らの不利益を負担することなく、右訴外人に対する債務の全額の支払いを連帯保証人である被告らに求めることは信義誠実の原則に反し権利濫用に該るものと言うを相当とする。
2 そして、右各事情に、《証拠省略》によると、前記一の2の(四)認定の建物には、原告のほか他に抵当権者、根抵当権者は存しないが、同認定の宅地二筆には、大蔵省の差押登記のほか、債権額を金六〇〇万円とし、抵当権者を訴外株式会社マツキとする一番抵当権(後に訴外志賀暢之に移転)、極度額を金六〇〇万円とし、根抵当権者を原告とする二番抵当権のほか、債権額を金一、二二八万五、〇〇〇円とする三番抵当権の各設定登記手続がなされていること及び右宅地二筆についての右の原告のための根抵当権による債権回収にはほとんど期待できないことを認めることができることをあわせ斟酌すると、右建物についての極度額である金一、五〇〇万円の半額の金七五〇万円については原告がこれを負担すべきであって、同金額について被告らに支払いを求める原告の本訴請求部分は信義則に反し権利濫用であって許されないものと判断する。
3 よって抗弁4は、右の限度において理由があり、その余は理由がない。
六 (結論)
よって、原告の本訴請求のうち、請求に係る準消費貸借金一、六五〇万円から前記五の2認定の金七五〇万円を控除した金九〇〇万円及びこれに対する弁済期の経過した後の日である昭和五一年一〇月一日以降支払済まで約定利率年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容すべく、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 豊田健)